咎人と黒猫へ捧ぐバラード
「ライスもいいけど。この食パンと頂きたいわねえ。志鳥さんに持ち込みは大丈夫か、訊いてみて?」
「かしこまりました」
ヒューマノイド清白が耳のイヤリングに触れた。
これは制御装置なのだが通信機器にもなる。
それはさておき、華は夕飯は志鳥家で済ませる予定のようだ。
清白が主と会話を始めた時、真吏が手の甲で口元を隠し華の耳に顔を寄せる。
「華先生、受付の男性は先生の彼ですか?」
「まさか。そんなわけないじゃない」
「じゃあ独身?」
「そうね。結婚はしてないわ」
真吏がどことなく嬉しそうなのは、受付の男性を紹介してもらいたかったからである。
男らしいイケメンでタイプだ。
「悪いけど恋人はいるわねえ。あの助手よ。付き合ってるの」
「え」
助手も受付も男性で同性である。
「ゲイカップルなのよ、あの二人。休憩時間にイチャイチャしていて、恥ずかしいのよねえ」
華は笑い、真吏のハートに亀裂が入り割れた。
しかし早い失恋だったのでダメージは小さい。
「持ち込みは大丈夫です。おれにも味見させろとのことです。味を盗むと云っておりますが」
通信を終えた清白が報告する。
「もちろん。だけど職人の技と企業秘密、暴けるかしらね」
「マスターならぱ可能です」
清白が云うと説得力がある。
彼女自体、最高技術と秘密の塊であり、一度は破壊された躰を再生させたのだから。
「でも志鳥さんは料理の腕前は普通ね。お店開いているから、並ではないけど」
真吏も華の言葉に納得だ。
「それで良いのです。私も手伝いがいがありますので」
これまた完璧なヒューマノイド清白が云うと、妙に納得するものがある。
華はカカカ、と笑った。
「あんたに云われちゃ、志鳥さんも肩身が狭いわね。ま、とりあえず行くか」
二人と一人。
共通しているのは性別で、見た目はでこぼこだが気が合うようだ。
「華先生、おいくつなんですか?」
「志鳥さんよりは下」
「私の分析では、四十……」
「あんたは黙ってなさい。お世辞でも二十歳といいなさい」
「了解しました。しかしプログラム上、嘘は云えません」
「正直者、清白」
清白は傘をたたみ三人は喫茶店に向かっている。
雨は止み星空が見えていた。