咎人と黒猫へ捧ぐバラード
なぜそんな極端な考えになるのか、理解に苦しむ。
しかし今はそれには触れなかった。
それよりは気になる。

「神の躰って」

真吏のコラムだ。

「完全な融合体。ヒューマノイド胚と人工体を融合させた、というそれだろう?」
「よく知っているじゃないか」

男は全ての準備を終えたようだ。

「おれは全てを失った。だから今こうしている。おれもここから、普通の人生を送るはずだったのに……」

男がこの学校の関係者で繋がりがあり、人生を狂わせる何かがあることは分かった。
気の毒とはおもうが、だからと云って危害を加えられる覚えもない。

「やめなよ、おじさん。僕はおじさんの事は知らないけど、今やめてくれたら恨まないし誰にも云わない。だから」

有秀はさりげなくズボンのベルトの後ろ側に手を伸ばす。
真吏のカフを切った小型ナイフはここに入っているのだ。

「小僧。妙な真似はするなよ」

男の瞳が鋭く光る。

「云っただろう。おれは神の躰を与えられたんだ。そこにナイフがあるのはわかっているんだ」

年代物のリボルバー式の拳銃を少年に向ける。
素材はプラスチックの立体コピー品だ。

「遅かれ早かれ、おまえは死ぬんだ。今、片付けても問題ないな」

親指が劇鉄を下げる。
模造品とはいえ、性能は本物と変わらない。
有秀がそれを見据え、口を開く。

「……そう努力すれば良かっただろう」

有道から秀道に変わっている。

「大なり小なり皆、努力している。あんたはそうしなかったから、全てを失っただけだ」
(秀道)

脳内で兄の有道の声が響く。
有道の意識を無理やり押し込めて、前に現れたのだ。
秀道は嘲笑と侮蔑を込めた皮肉な視線で男を見下す。

「そうやって一生、他人のせいにして生きてろ。誰も助けちゃくれんだろうぜ」
「黙れ、糞ガキ!」
(ダメだ!秀道……!)

男が拳銃の引き金を引いた。
風船が割れるような音が響く。

少年は額の辺りから血が吹き出し、そのまま倒れる。

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