咎人と黒猫へ捧ぐバラード

白い髪にバイオレットの瞳。
背丈も同じで顔だちもそっくりだが片方は穏やかな少年で、もう一人は毒気のある少年だ。
穏やかな少年、有道が口を開く。

(ヒド。ぼくらは一緒に遊んだりすることはできなかったけど、いつも一緒だったよね)
(そうだな)
(君がぼくを邪魔に思っていること、知ってたんだ。でもぼくも意固地になって)
(ただの兄弟げんかだろ)
(けんか……本当にそうだ)

有道が笑った。

(ヒドは口は悪いけど、根は優しいんだ。だからぼくの意識を無理矢理、閉じ込めたりしなかった。いつだって出来たのに。さっきも……)

確実に撃たれる事を意識した時、秀道は有道の意識を押さえ込み現れた。
それは弟が兄を庇おうとした行為であると、兄である有道は分かっていた。

(そこまでして活動したくもなかったからだ)

秀道が強がったように口を尖らせる。
有道は笑ったようだが力がない。

(なんだか、いつもより眠い)
(有道)
(これからは自由だよ。秀道。この躰は君の自由にできる)

有道の声は今にも眠りに落ちそうな声だ。

(おまえがいないと困る。おれは糖分を摂れないんだからな)
(ぼくは炭酸と甘くないものが苦手だ)

二人は笑った。

鏡で見ているように、そっくりの二人の少年の影が向き合い掌を合わせる。

(消えるんじゃない。統合だ)
(不服だが死ぬよりはマシだ)
(そうだね。死んだら何もならない)

脳内でふたりの感情と人格が混ざりあい、ひとつの人間になってゆく。

─ぼくらは
─おれたちは

(ひとつになっても双子だ……!)

やがてひとりだけになり、現実の躰の瞼が開く。

「有道君!秀道君!」

真吏が声をかけた時、少年の瞼がゆっくりと開く。

「真吏。ぼくは有秀(ありひで)になった。よろしくな」

マスク越しで、たどたどしい口調であったがそう云っているのがわかった。
有道と秀道の笑顔が混ざっている。
視線が鷹人へ動く。

「……ああ、鷹人」

有秀が何やら口を動かしている。
鷹人か少年の顔に耳を近づけた。

「確かに伝えたぞ……」

少年は微笑し目を閉じる。
再び眠りについたようだ。

「なんて云ってたの?」

真吏が訊ねた。

「黒猫の去勢手術の話だ。華先生の伝言だと」
「……去勢?」

真吏は繰り返し志鳥と顔を見合せた。
少年の顔に視線を落とすと、天使のような寝顔にどこか悪戯めいた笑みを浮かべている。

「えと……こんな時に?いえ、こんな時だから?……ふふっ、まったく……あはは」

真吏は言葉の途中から吹き出した。
これは少年なりの鷹人への気遣いであり、軽い意地悪なのかもしれない。

「ごめんね、鷹人君。大変で大事なことなのに」

真吏は笑い過ぎて止まらない涙を指で拭う。

「有秀は、やっぱり有秀だな」

志鳥は呆れながらも笑顔を浮かべている。
少年の容態は身体的にも精神的にも安定したようだ。


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