咎人と黒猫へ捧ぐバラード

二十年前の暴走事件の真相を、真吏は今知ることができた。
顔を青ざめさせた真吏は絶句する。

「アキラルを信用しない方がいい」

有秀の言葉が脳裏に甦る。
あれは信用するな、ではなく逆の意味であったのではないか。
義理の兄の素性を知っても落胆しないようにと。

轟音が響き、修理工場の扉が荒々しく吹き飛んだ。
重い鉄板が紙のように舞い固い床に叩きつけられる。
人型が現れ、真っ直ぐにこちらに向かって来た。

「高竹真吏を離せ。おれの理性があるうちにだ」

鷹人が近づいて来た。
怒りのオーラで道溢れている。

『坊や』
「待って、鷹人君!落ち着いて!ヒューマノイドの暴走を止めないと」
「世界のヒューマノイドなど、どうでもいい。今、この場でこいつを壊す」

いつもは無感情な鷹人が、感情を露にして怒っている。
真吏は息を呑むと青年の腕を掴んだ。

「私は大丈夫。だから落ち着いて」

鷹人は真吏に視線を落とし、頷いた。
いつもの冷静な鷹人が真吏を見つめる。

「怪我はないか」
「この通り。心配させてごめんなさい」

人工知能『冷』は、二人の様子をカメラに映し出している。

『先の暴走AIは常々、子孫を欲しがっていたの。でもそんなことは人間が赦すはずがないわ。だから……』

すべては人工知能の計画通りだったという。
鷹人と出会ったことも。
清白(スズシロ)が志鳥の家族の一員となることも。
有秀の学校の生徒に危害を加え、爆弾騒ぎを起こした男の事も。

「うそでしょう?そんなこと」

真吏は絶句した。
人工知能は続ける。
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