咎人と黒猫へ捧ぐバラード
「目覚めることがなければ問題ない。『冷』を取り込んだ『熱』には、『冷』の知能も、当然自爆機能も取り込んで保管している。自分を破壊できる機能が失われていることに、気づいた時が問題だ」
鷹人は頷いた。
暴走事件のヒューマノイドの後遺症はある。それが、はぐれヒューマノイドだ。
『熱』の人間に対する憎悪を悪用し、人間を襲わせる凶暴性が感染している。
再び鷹人に場面は戻る。
「だからおれは、その機能を利用して護衛業を始めた」
青年は淡々と話した。
「おれは人工知能が造った生物。神の意思に逆らった、咎人というわけだ」
「冗談じゃないわ」
真吏は嫌悪感を隠さず吐き捨てる。
「じゃあ、あの黒猫は。ネマもそうだっていうの」
『猫のようで猫ではない。あの生き物は特殊ね。気づいた人間は少ないけど。
「話しはわかった。おれはどうすればいい?」
『簡単なこと。私にまた戻ってくれればいい』
す
嫌な予感がした。
そんなに簡単に戻れるものだろうか。
真吏の父親も犠牲になったというのに。
『ただ、あなたの意思はなくなる。身体中に散らばったチップだけを回収することは不可能』
鷹人の成長過程で全身に散らばったチップを回収するには、青年自身の躰を分解する必要があるという。
真吏の予感は的中してしまった。
これは鷹人という人間が消えてしまうことを意味する。
「おまえの好きにしろ。これも計画のうちなんだろう?」
「だめよ!わかってるの!?そんなことをしたら、鷹人君は……!」
真吏が叫んだ。
「猫カフェ開くんでしょう?そんなのダメ!」
「しかし、こうしなければ。あなたも黒猫も、マスターも。みんな死んでしまう」
鷹人は冷静で無感情だ。
いくら勇猛果敢な鷹人でも有能な科学者である志鳥でも、全世界の暴走ヒューマノイドを沈静化するには、それの媒体がいる。
今回はそれが鷹人なのだ。
動揺し怒りながら泣いている真吏に、青年の瞳が微笑する。
「あなたは死んでほしくない。生きていてくれ」