咎人と黒猫へ捧ぐバラード
鷹人がいなくなった後の喫茶店では。
「鷹人のことは、おれに責任がある」
志鳥は研究者を止める事を考えていた時だ。
「私は、まだ世界を見ていたいです」
ヒューマノイド清白が、珈琲を運んできた。
志鳥しか清白のメンテナンスはできないので彼がそれを止めてしまうということは、彼女の死を意味する。
志鳥は真面目な表情で頷いた。
「そうだな。おれが止めたり死んだら、おまえのメンテナンスができなくなる。そうならないようにはしていく。渕脇にも……」
バーナ重工業にも彼の技術を委託し清白を託すつもりだ。
珈琲カップを志鳥の前に置く。
「マスターは人間ですから、これから脳は縮小し躰の機能も衰えてゆきます。ですから私《わたくし》は、マスターの介護をするつもりでおります」
ヒューマノイドアシスタントの言葉に主である志鳥は、呆気の表情だ。
カップに注いだ熱い珈琲から香しい湯気が昇っている。
「私は人形ですが娘のつもりでおります。造って下さって、ありがとう」
その微笑は人間そのものである。
「前に云って下さったではないですか。私はただの人工生命体ではないと。長生きして下さい、マスター。私のために」
確かに自分は、そう云った。
志鳥は鼻の頭を掻く。
「ああ、わかった。これからも頑張っていこう。清白」
弱気になっている場合ではない。
彼には生命体を造った責任がある。
「鷹人の子供も産まれるしな。孫。不思議だ」