咎人と黒猫へ捧ぐバラード
鷹人はいなくなったが真吏は彼の子供を産み、仕事を続けながら子育てをしている。
ジャーナリストを諦めようとした真吏だったが、志鳥や有秀が彼女と赤ん坊の世話役を申し出てくれて、細々と母子共に困らない程度に働いていた。
まだ赤ん坊なので少し広い家へ引っ越しを考えている。
記事を書き終えた真吏が息をついた時、電話が鳴った。
清白だった。
「真吏。そちらにネマがいませんか?」
清白からの電話だった。
度々、外へ出かけることがあるという。
「ええ?来ないとは思うけど……」
窓の外を見てみたが、それらしい気配はない。
「おい真吏!赤ん坊は元気か」
スマートホンを耳に当てたまま外を見ていると、有秀の声が聞こえてきた。
「わかっているとは思うが、あんたが倒れたらな、そいつまで共倒れだ。無理すんじゃねえぞ。手伝いに言ってやってもいいぜ」
「はい、はい、ありがとう。いつでも会いにきてね。私も行くけど」
真吏はクスリと笑う。
少年は血の繋がらない甥っ子を溺愛しており、真吏にも口は悪いが気にかけてくれているようだ。
「ネマは私も探してみる。またね」
一通り会話を終え、ちょうどぐずり始めた赤ん坊をのオムツを取り替え、ミルクを与えた後にベビーカーに乗せ外へ出る。
気分転換にも赤ん坊の散歩にもちょうど良かった。
真吏が玄関を開け外へ出ると。
「あら」
なんと黒猫ネマがこちら背中を向けて座っている。
いつの間にか青年の黒い服を引っ張り出して来たのか、入り口に落ちている。
「持ってきたの?嘘でしょ」
真吏が近づくと服の上から走っていく。
そして首だけこちらに向けて真吏が来た事を確認すると、歩き出した。
ベビーカーに落ちている服を収納していると、それを確認し前を歩いている。
たまにこちらを振り替える所をみると、付いて来るように促しているようである。
尻尾を立てて歩く黒猫が誘導した先は、あの暴走AIが閉鎖されたヒューマノイド修理工場だった。
あちこちに規制線が張られ封鎖されており、今は違う場所で修理工場は営業している。
黒猫はその規制線の隙間を知っているようで、センサーにもかかることなく歩いていく。
「私が入っても大丈夫かな」
真吏は赤ん坊をベビーカーから抱き上げると黒猫の後を付いていく。
どうやらセンサーが壊れているらしく、真吏が侵入しても反応することはなかった。
青年が破壊した培養液のガラスも、こわれたままになっている。
やがて黒猫はあの人工知能の前で腰を下ろした。
鳴き声をあげる。