愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「私も誰かと過ごす夜は悪くないって思ったの。あっ、もちろん手を出したらその時点で追い出すからね」
そこだけは譲らないけれど。
それさえ守ってくれれば家に置いてあげるのだ、好条件だろう。
「……川上さんは優しいね」
「偽善かもしれないけどね」
「そんなことないよ」
「どうかな」
こんな危険人物を家に置くだなんて、私の神経どうかしてる。
それでも手を差し伸べたのだ、後戻りはできない。
「なんだか夢みたいだな」
「夢?」
「いつも長期休みに入る目前は気が重かったんだけど、今は嘘みたいに軽くなったよ」
嬉しそうな笑み。
まだまだ幼い部分が瀬野には残っているようだ。
「無理しすぎなんだよ瀬野は」
強いくせに弱い。
それこそがまさに瀬野であった。
「無理…しすぎ」
「そう。だから冬休みは気を休めればいいんじゃない?その手伝いくらいならしてあげる」
あくまで家の提供のみなのだが。
その分ちゃんと家事もやらせよう。
「……本当に川上さんは不思議な人だね」
その時。
ふっ、と息を吐くように笑みを漏らした瀬野。
「不思議?」
「うん、なんかすごく触れたい」
「…っ、絶対に触れたら終わりだから!」
「わかってるよ、だから我慢するよ」
ニコニコ笑って、また私の反応を楽しんでいる様子。
触れなくても私を乱させるのだから、危険以外の何者でもない。