愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「も、もう夜も遅いし寝るよ…!」
気づけば日付が変わっている。
明日から休みとはいえ、あまり体の悪い生活はしたくない。
そして寝る準備を済ませたけれど、瀬野はベッドに入ろうとしないから、思わず催促した。
「ほら、早くベッド入って」
「川上さんはどこで寝るの?」
「どこって、ベッドだけど」
「え、一緒に…?」
「それ以外に何があるの?」
「いや、触るなって言うくせにそこは平気なんだなって」
「…っ」
そこまで言われてようやく意味が理解できた。
特に深い意味はなかったというのに。
てっきり前回と同じように一緒に寝るものだと…そうか、そう思っていたのは私だけだったのか。
危機感を抱かずに本当馬鹿みたい。
「それとも俺をいじめるため?
誘っておいて触れさせないって、中々地獄だよね」
「ち、ちが…私はただ前回と同じようにって思っただけで深い意味は…」
「うん、知ってるよ。だって純粋な川上さんだよ?
そこまで考えてるわけないよね」
「…っ、こいつ…」
またわざとだ。
わざと私を焦らせて。
本当に嫌い、大嫌いだと何度も心で唱える。
「やっぱり私は床で寝る!」
「それなら俺が床で寝るよ、川上さんの家なのに」
「あーもう本当に嫌!大人しくベッドで寝なさいよ!」
「川上さんは…?
俺だけいい場所で寝るなんて嫌だよ」
一切触れられていないというのに、まるで手を引かれるような感覚に陥る。
全部瀬野のせいだ。
「私も寝ればいいんでしょ!
何、さっきは地獄だとか言ってたくせに」
「川上さんの反応が面白くて…ごめんね」
「反省する気がないくせに謝るな!」
面白いと言われた直後に謝られたところで誰が信じるのか。
本当にふざけてる。
どこまで私で遊ぶ気だ。