愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「ほら、嘘つかないで。
川上さんに風邪ひかれるのは嫌だよ」
私に触れないように、そっと布団をかけてきたけれど。
瀬野はバカか、いやバカだ。
布団の大部分を私に被せてきたのだ、これだと今度は瀬野が寒いことだろう。
「あー、もう本当にあんたって嫌!
私の厚意を無駄にするから!」
「……川上さ…っ!?」
瀬野が言葉を途切れさせたのも無理はない。
背中を向けたままだったけれど、瀬野にピタリとくっついたからだ。
「これならお互い寒くないんでしょ?」
「え…でも、これって」
「瀬野から私に触れることがダメなの。
だったら私から触れる分には別にいいでしょ」
なんとも無茶苦茶な言い分だが、こうでもしないと私自身が許せない。
決して自らの意思でこうしたわけではないと。
場の状況的に仕方なくこうしたのだと。
「本当に川上さんって…」
「何よ」
「ううん、なんでもない。ありがとう。
実は前みたいにこうしたかった」
私から近づいたことにより、瀬野は躊躇うことなくゆっくりと手を回して私を抱きしめる。
瀬野がこうしたいと思っていることは、視線でなんとなく気づいていたのが正直なところ。