愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「瀬野…!」

少し大きめの声で名前を呼べば、ハッとした彼。
我に返ったのだろうか。


「ごめん、これヘルメットね」
「……怖いの?」

まだ微かに震えている指先。
その指を絡めるようにして、ゆっくりと瀬野の手を握る。


「…っ、ごめん。ダサいよね」
「それなりの理由があるんでしょ」


それほどに恐怖を植え付けられた“何か”があるのだ。
別にダサいとは思わない。

やっぱり瀬野は強くて弱い。
まだまだ未完全な部分もあるのだと。


「本当、川上さんには敵わないなぁ」


瀬野が無理して笑ったかと思うと、私をギュッと抱きしめてきて。

力強い抱きしめ方だった。


「ん、ありがとう。
川上さんのおかげで落ち着いた」

「……もう?」


ほんの少し抱きしめただけで切り替えられるだなんて、それはそれですごい。

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