愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「川上さんに救われたよ」
穏やかな笑みを浮かべた瀬野の指先は、もう震えていなかった。
どうやら正常に戻ったようだ。
それからお互いにヘルメットを被り、いつもの体勢になる。
今度は私が瀬野の腰に巻きついて、密着するのだ。
「今から向かうの?
普通に私服だけど…」
不良の溜まり場って、派手な髪型にピアスを至るところにあけ、制服を着崩してる奴らが集まっているイメージしかない。
「来たい時に来たらいい場所だから、別に服装とか関係ないよ」
「そうなの?」
「日常に嫌気が差して逃げ場として来てる人もいるし。真面目そうな人も中にはいるよ」
それに一番該当するのは瀬野だろう。
完璧で人気者の瀬野に、こんなにも危険な裏があるのだ。
「多分、みんな川上さんを気に入ると思うな」
「こんな瀬野に歯向かってるようなやつでも?」
「どっちの川上さんでも大丈夫だと思うけどなぁ。
ただ…ひとりだけ、難しい人がいるけどね」
「へぇ、どんなやつ?」
「俺たちのひとつ年下で、唯一の女だよ」
「年下の女の子がいるの…?」
つまり高校一年の女子だ。
そんな子が瀬野の仲間にいるのか。
「その子が少し気難しくて、自分が一番じゃないと嫌だってタイプだから…」
「あー、わかった。
うまいことやればいいのね」
「本当に川上さんは話が早くて怖いよ」
「別に考えなくてもわかることじゃない」
その子と対立さえしなければいいのだ。
ということは、表の自分で行った方が良さそうである。
とにかく嫌われないように注意しようと心に決め、瀬野と一緒に目的地へと向かった。