愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「ここを通る以外に、そこへの行き方はないの?」
「一応あるけど暗証番号がいるんだ」
「へぇ、どっかのすごい組織みたいね」
「まあ単にそれを知っていいのは総長だけって言われているから、総長の特権だね」
「どうして今日はそこから来なかったの?」
「川上さんが俺の女になってくれるんなら、そこから来ても良かったんだよ。そっちの方が近いし」
「なっ…バカじゃないの?」
誰が瀬野の女になるか。
それなら遠回りでもこっちの道を通った方がマシである。
「えー、俺の彼女になってくれたらいつでも出入り可能だよ」
「触るな!」
頬を指で突っついてくる瀬野がうざい。
いちいち腹が立つ。
「もう二度とここに来ることはないだろうから大丈夫、瀬野の彼女にはなりません」
満面の笑みを浮かべて瀬野を突き放すけれど。
少し不服そうな彼。
「んー、つれないなぁ」
「他をあたってください。みんな瀬野の彼女って聞いたら飛びついて立候補すると思うよ」
「川上さんだからよかったのに…」
「変に懐かないでよ、気持ち悪い」
迷惑だ、そんな懐かれたところで。
いい加減私を巻き込むのは辞めてほしいと。
少し瀬野と距離をとろうと思ったその時。
「涼介さん!」
「総長!」
突然地下に響いたのは、男の人の声。
見ると地下通路の先にある扉の前で、男がふたり立っていた。
どちらもヤンキーが着てそうな黒の特攻服に袖を通しており、髪は金髪と赤といった派手色である。