愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「ああ、雷霆だよ」
「雷霆ってことは…煌凰の指示か?」
先ほどまでいじられていた副総長の陽翔という男も真剣な顔つきへと変わる。
それにしても先ほどから難しい単語が飛び交っているけれど、それが族の名前なのだろうか。
「んー、多分単独での行動じゃないかな。
雷霆は命令されて動くことを嫌いそうだからね」
瀬野に肩を抱き寄せられて密着状態の上、先ほどから頭を撫でてくるから少しくすぐったいけれど。
この手が振り払えないのが腹立たしい。
「涼ちゃん、僕にも愛佳ちゃんと絡ませてよケチ。ね、愛佳ちゃんも涼ちゃんに触れられてばっかで嫌だよね?」
思わず『もちろん』と即答して、何度も頷きたくなる。
が、ここは我慢だ。
わざと戸惑ったフリをしておく。
「光希、今は真面目な話をしてるんだよ」
「それにしても愛佳ちゃんにペタペタ触ってるじゃん。僕もすべすべお肌触りたい!」
本当にここは個性集団だ。
さすがの私も疲れてきた。
「そういえば俺、川上さんに話してなかったよね」
「えっ…?」
こいつ、真っ向から話を逸らしやがった。
「族のことを詳しく」
「う、ん…でも私なんかが聞いたらいけないんじゃ…」
「いや、逆に知っておいた方がいいかも。
敵のこととか特にね」
ああ、やっぱりここに来るんじゃなかった。
どんどん面倒ごとに巻き込まれているような気がする。