愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
そのため私自身、帰る気でいたけれど───
「ごめんね莉乃、今日は送ってあげられないんだ。
だから仲間に送っでもらうよう頼むね」
瀬野はハッキリとそれを断った。
まさかの展開に一番驚いていたのは、瀬野の仲間たちだった。
もちろん彼女自身も驚いている。
「え、どうして…?
いつもなら送ってくれるのに」
「敵のことで大事な話をしてる最中だったんだ。
だから今回はごめんね」
「む…ひどいよ涼介。
莉乃が襲われてもいいの…?」
「俺がそんなこと一ミリも思うわけないだろう?
ちゃんと莉乃の守り役もつけるよ」
「やだ、涼介じゃないとやだ…!
涼介じゃないと、莉乃…莉乃っ…」
なんてわがままな女だ。
たった一度断っただけで、彼女は泣き出してしまう。
「涼介がいい、涼介じゃないとや…」
本当にふたりは恋人同士じゃないのだろうか。
思わずそう突っ込まずにはいられない。
ポロポロ泣いて縋る彼女に、瀬野は───
「莉乃、今日は我慢してほしい。
あまり俺を困らせないで」
トーンの落ちた冷たい声だった。
彼女だけでなく、思わず私もビクッと肩が跳ねる。
空気が凍てつくのがわかった。