愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「うう…涼介、莉乃のこと嫌いになった?」
「なってないよ。ただ、俺の立場も考えてほしい。
今はここを去るわけにはいかないんだ」
大人しくなった彼女の頭を撫で、落ち着かせる瀬野。
そこにきてようやく彼女は折れ、拗ねた様子で地下室を後にした。
ようやく室内が静かになる。
その中で安堵の空気が流れたのを私は感じ取った。
「……めっずらしいねぇ涼ちゃん!いつも莉乃ちゃん第一なのに!僕、見直しちゃったよ!
あんな風に突き放すところ初めて見た!いやぁいいザマだよ、愛佳ちゃんにもひどいこと言って本当に最低」
「確かに瀬野があそこまで突き放すなんて、何かあったのか?」
「涼介も時には言うんだなぁ」
彼女がいなくなるなり、騒がしくなる幹部のメンバー。
ゲームばかりしていた翼という男までもが、少し驚いた様子で瀬野を見ている。
つまりはそれほど今の行動が驚くべきことなのだ。
「今回は絶対に譲れないと思ったからね。
絶対に川上さんを俺のそばから離れさせないって」
「……え、私…?」
「敵の話は二の次だよ。一番は川上さんをひとりでここに取り残したくなかったんだ」
その言葉でまた騒がしくなる地下室。
どこまで誤解させたいのだか。
「やだ涼ちゃん男前…!それでも愛佳ちゃんにきつい言葉ぶつけた莉乃ちゃんは許されないから!」
「それは俺からも謝るよ、ごめんね川上さん」
「ううん、私の方こそ馴れ馴れしく話しかけてしまったから謝らないと…」
反省なんてひとつもしてないけれど。
今の言葉でさらに私が“いい子”だと周りは思っただろう。