愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「それかあの日、俺が川上さんに手を出せば良かったかな?案外ハマってくれてたかも…」

「本当に気持ち悪いから!」


瀬野を突き放そうとしたけれど、力がまったく敵わない。

彼の考えていることがあまりにも最低すぎる。


「全員が全員、川上さんの気持ちを汲み取ってくれるわけじゃないんだよ。

力で押さえつけるような危険な男もいるってこと、覚えておいて」


それはまさに瀬野ではないか。

肉体的な力の強さだけでなく、自分の優位な立場を使って私を脅してきて。


権力で押さえつけているのもいいとこだ。



「まあこれからは何があっても俺が助けるから安心してね。ただ他の男がいいなんて発言は控えてほしいなぁ」


なんとも言えない威圧感。
また瀬野に対してゾクッとする。


「な、なんで瀬野が怒るの」
「んー?俺は別に怒ってないよ」

「嘘。だって怖いよ、その笑顔」
「多分気のせいだね」


そんな嘘バレバレな笑顔を浮かべられても怖いだけだ。

そのくせ私の腰に手をまわされた手の力は強く、ガッチリ掴まれている。


「はい、じゃあヘルメット被って」


停めているバイクがある場所につけば、瀬野にヘルメットを渡される。

ようやく帰れるというのに、なんとも複雑な心情だ。

< 165 / 600 >

この作品をシェア

pagetop