愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「それかあの日、俺が川上さんに手を出せば良かったかな?案外ハマってくれてたかも…」
「本当に気持ち悪いから!」
瀬野を突き放そうとしたけれど、力がまったく敵わない。
彼の考えていることがあまりにも最低すぎる。
「全員が全員、川上さんの気持ちを汲み取ってくれるわけじゃないんだよ。
力で押さえつけるような危険な男もいるってこと、覚えておいて」
それはまさに瀬野ではないか。
肉体的な力の強さだけでなく、自分の優位な立場を使って私を脅してきて。
権力で押さえつけているのもいいとこだ。
「まあこれからは何があっても俺が助けるから安心してね。ただ他の男がいいなんて発言は控えてほしいなぁ」
なんとも言えない威圧感。
また瀬野に対してゾクッとする。
「な、なんで瀬野が怒るの」
「んー?俺は別に怒ってないよ」
「嘘。だって怖いよ、その笑顔」
「多分気のせいだね」
そんな嘘バレバレな笑顔を浮かべられても怖いだけだ。
そのくせ私の腰に手をまわされた手の力は強く、ガッチリ掴まれている。
「はい、じゃあヘルメット被って」
停めているバイクがある場所につけば、瀬野にヘルメットを渡される。
ようやく帰れるというのに、なんとも複雑な心情だ。