愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「川上さん」
「……なに」
ヘルメットを被るなり、瀬野に名前を呼ばれるけれど。
相手の機嫌をとろうだなんて考えないことにする。
だって普通に面倒くさい。
「もう家に帰る?」
「……それ以外に何があるの」
「せっかくお互い私服で出かけてるのに、惜しいなって」
「絶対に嫌。
知り合いに見られたらデートだって思われる」
さっきまで怒ってたくせに。
こういう時だけ都合よく私を誘わないでほしい。
「それに私なんかどうでもいいんでしょ?
他の男に襲われて痛い目に遭えって言ってたからね」
何故こんなにもイライラする必要があるのかわからなかったけれど。
どうしても瀬野を責めてしまう。
「そこまで言ってないよ」
「私にはそう聞こえた」
「ごめん、さすがに言いすぎたって反省してる。川上さんが俺以外の男が良いって言うから、ちょっと腹が立って」
「……知らない」
どうして腹が立つんだ。
それってまるで、瀬野が私に好意を抱いているのだと勘違いするような言い方だ。