愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「んー、俺も出かけるかぁ。
やっぱりひとりは嫌だな」
「本当にそういうところ、子供っぽいよね」
わざと呆れてみせるけれど、瀬野は苦笑するだけ。
恐らく自分でわかっているのだろう。
そのせいで沈黙が流れてしまうけれど、瀬野は私の隣から動こうとしない。
本当に邪魔というか、さすがに気まずい。
「はぁ…さっきから何、私に触らないと気が済まないの?それって結構ひどい禁断症状なんじゃない?」
耐えきれず、ついついキツめの言葉をぶつけてしまう。
「うん、結構中毒性があるかも」
「……冗談で流してよ、そんな本気にしないで」
「結構本気だよ、俺。
川上さんだとすぐに触れたくなる」
そんなに甘く言っても無駄だ。
私は揺らがないぞと。
「触れたらその時点で追い出すよ」
「……厳しいなぁ」
「当たり前じゃない。それが約束でしょ」
「だから川上さんの許可を得ようとしてるんだよ」
私が許可するとでも思っているのか。
その軽い考えに驚きである。
「絶対に許可なんてしません」
「……どこいくの?」
「着替えるから洗面所に行くの。
瀬野も出かける準備、しといたら?」
そんな悲しい目をしたって無理だ。
誰が騙されるものかと。
ここは警戒して立ち上がり、洗面所へと着替えにいく。