愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「キスは入らないよね、恋人同士なら普通にするだろうし」

「私がいつ瀬野の恋人になった?」
「……いま」

「本当にバカすぎて嫌」


そのようなことをさらっと言ってしまう瀬野は、やっぱり女好きである。


「キスしたいなら今まで関係を持っていた女の人たちと会ってすればいいじゃない」


歳上の女性だけでなく、歳下の女の子にも懐かれているじゃないか。

この間の地下室でそれをこの目で見たのだから。
まるで恋人同士のようだった。


「そうじゃないんだよなぁ、川上さんだからキスしたいんだよ」

「嘘つけ、一番身近な女が私だからでしょ」
「こんな気持ちになるの、初めてだよ俺」


そこまで懐かれるようなことをした覚えはない。

チラッと時計に目をやると、まだ家を出るまで時間がある。


適当に言い訳して家を出てしまおうか。
目の前の男に流されてしまいそうだと思ったのだ。


「そろそろ家出るから離れて」

「11時に集合なんだよね?
まだあと1時間くらい家に居られるよ」

「その前に寄りたいところがあるの」
「……嫌だ、まだこのままで」


瀬野は私を離すどころか、まわされた手にギュッと力を込められる。


「本当に何なの、瀬野って」
「んー、何なんだろうね」


なんて、都合の悪い質問は濁して。
ふと私の顔を覗き込むようにして見つめてきた。

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