愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「…っ、それは嫌」
咄嗟に顔を背けるけれど。
瀬野はクスクス笑うだけで、離れようとはしない。
「かわいい反応してる」
「み、見るな」
先ほどから視線を感じる。
すぐそこに瀬野がいるのだ。
「川上さん、目を閉じて」
「……嫌」
「大丈夫、何もしないから」
驚くほど信用ならない言葉だった。
瀬野は本気で私が信じるとでも思ったのだろうか。
頑なにそれを拒否していると、肩にまわされた瀬野の手が、今度は私の頬を撫でてくる。
下心しか感じられない触り方。
「……それ止めて」
「川上さんさ、さっきから言葉の抵抗ばっかりだよ。
本当は嫌じゃないんだよね」
「…っ」
まるで私の心を見透かされているような気がして嫌だ。
私だって不思議だ。
心の中では抵抗しているのに、体が言うことを聞かない。
なんて、ただの言い訳に過ぎない。
本当に嫌なら初めから瀬野の隣に座ろうとせず、触れなければいいものの。
自らそこに向かったのだ。
だんだんと瀬野に呑まれていくのがわかる。
完全に自分のペースが乱されているのだ。
やっぱり瀬野の隣は危険である。
「そんなわけない…本当にあんたなんか家から追い出し…」
せめてもの抵抗で『追い出してやる』と口にしたけれど。
瀬野が全部を言わせてくれなかった。
喋らせないようにと私の唇を自分のそれで塞いできたのだ。