愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「映画楽しみだね〜」
「友達も同じ映画観たらしいんだけど、キュンキュンして胸が苦しいって言ってたから期待大だね!」
春美と沙彩の会話を聞いて、この後観る予定の映画を思い出す。
確か学園モノの恋愛映画で、胸キュン必須だとかなんとか言っていたっけ。
特に恋愛など興味ないし、したこともないけれど。
男慣れしていないせいで瀬野に迫られ、乱されてしまうのが悔しい。
なんて、どうして友達との場で瀬野のことを考えてしまうのだ。
本当にバカみたい。
切り替えるようにして、なんとなく店の窓ガラスの外に視線を向けたその時───
「……っ!?」
「え、愛佳…?どうしたの?」
「う、ううん!なんでもない…あはは」
慌てて視線を店内へと戻し、不審に思った沙彩に笑いかける。
勘違いかもしれないけれど、2人組みの悪そうな男がスマホを片手に、私を見ていたような気がした。
いや、ただ自意識過剰なだけ。
大丈夫だと思い込む。
それでも怖くてもう一度、バレないように恐る恐る視線を向けたけれど、その時にはもういなかった。
見間違い、だろうか。
見間違いであると思い込むことにする。
それに今は沙彩たちもいるし大丈夫───
……本当に?
もしそれで、沙彩たちも巻き込まれてしまったら?
そう思うと、ドクンと心臓が嫌な音を立てた。
もしあの男2人が瀬野の敵で、私を狙っていたらその可能性もゼロではないのだ。
映画前に帰ろうとしたけれど、それは3人に止められてしまう。
だがファーストフード店を出て映画館へ行く最中も、先ほどの男2人を見かけなかったからやっぱり気のせいだろうか。
大丈夫だと思いたい。
周りを警戒して歩く中、館内に入る。
そして映画に集中───
したいところだったけれど。
先ほどから嫌な予感がしてならないのだ。