愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
周りに助けを求めようにも、3人の男に囲まれているため誰とも目を合わせることができない。
「あ、あの…私っ」
「やっと愛佳と合流できたな!」
「遅くなるんなら連絡くれよ〜」
「…っ!?」
どうして私の名前…そうか、もうそこまで私の存在が広がっているのか。
わざと私の名前を呼び、馴れ馴れしく話しかける男たち。
そのせいで周囲は私を含めて“悪い奴らの集団”と勘違いしているようで、全員が私たちを見ないようにしていた。
一瞬にしてネオン街の裏通りで、男2人に絡まれたことが思い出される。
あの時は瀬野がいたから助かったけれど、今はいない。
助けを求められる手段も奪われたのだ。
さらに脅されてしまった私は、これからどうされるのだろう。
心臓がドクドクとうるさく脈打つ。
これほどの危機感に晒される日が来るなんて、誰が想像できただろう。
「やっ…」
こういう時に限って、声は上手く出ないもので。
掠れた声は誰にも届かない。
無理矢理手を引かれ、連れてこられたのはすぐ近くにあったカラオケ店。
「佐藤さん!部屋は303号室になります!」
「ああ、ありがとう。仁蘭の奴は誰一人通すなよ。
特に総長本人が来たら脅して捕らえろ」
「わかりました!」
最悪だ。
そこのカラオケ店の従業員も、敵の仲間のようで。
助けを求めても無駄だという絶望感に晒される。
完全に抵抗する気力が失われた。