愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「楽しそうなことしてるね。
俺も混ぜてくれる?」
「…っ、瀬野涼介…!!」
佐藤という男ではない下っ端の男ふたりが、緊急事態に気付いて慌てて瀬野に襲いかかる。
が、瀬野は簡単に相手の攻撃を躱し、ひとりは彼に蹴り飛ばされ、もうひとりは鳩尾を一発殴られるのが見えた。
派手な音を立ててどちらもその場に倒れ込む。
一瞬にして戦闘不能になったようだ。
瀬野には脚力も腕力もあるのか。
細身に思えて、急所を一発で狙う瀬野は無敵に見えた。
「君は、“佐藤さん”だっけ?」
「ひっ…く、来るな!来たらさっき撮ったこの女の写真、ばらまいてや…」
「あー、残念だけどそのスマホ、もう俺の仲間が乗っとったよ」
「は…?」
「つまり君がバラまくことは不可能なんだよ。
残念だったね」
満面の笑みを浮かべる瀬野に対して、あっという間に怯える表情へと変わる男。
「今すぐに川上さんを離して逃げるんだったら、俺は君に手出しはしないよ」
「…っ、き、今日はこれで許してやる…!」
この中で一番偉いはずなのに、男は仲間を置いて一目散に逃げてしまう。
なんとも間抜けな男だ。
けれど瀬野は男を見逃した───
けれど。
瀬野が悪そうな笑みを浮かべた瞬間、ドアの向こうから先ほどの男の叫び声が聞こえてきた。