愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
思わずゾッと全身に恐怖の感情が走る。
光希くんも只者ではないと。
私は一切敵わなかった男が、光希くんに簡単にやられたのだ。
「それに仲間を置いて逃げるとか最低だね。
仲間がかわいそー」
「……光希も呼んだのに、何もしないのは嫌かなって思って」
「あ、だから僕に譲ってくれたのか!
それはありがたないな、すごく弱かったけど!」
この中で一番強かったはずの男が、光希くんに簡単にやられてしまい、仁蘭の幹部の圧倒的な強さを見せつけられる。
「川上さん…?大丈夫?」
瀬野は心配した様子で私を見つめ、再び抱きしめてくるけれど。
何かがおかしいと思った。
私の居場所は一切伝えていないというのに、瀬野はここにやって来た。
それも私の恐怖心が限界を訪れようとしていた瞬間に。
もし“こうなること”がわかっていたら?
私の恐怖心を煽って、それから助けて。
弱った心は当然、助けてくれた瀬野に安心感を抱くに決まっている。
これはあまりにも“できすぎている”。