愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「……そういうこと、か」
「川上さん?」


思い出されるのは、瀬野に連れてこられた地下室からの帰り道での彼の言葉。


『そんな風に言われるならあの時ギリギリまで助けなかったら良かった』


なんて言ったかと思うと。


『あの日、川上さんが裏通りで男ふたりに絡まれた時。ホテル連れ込まれて襲われかけてる時に助けたら、もっと男の危なさをわかってくれてたかなぁ。もしかしたら俺への見方も変わってたかもしれないし』


確かに瀬野はそう言った。
まさに今、起こっている内容とほぼ重なる言葉だ。


「……光希くん」
「どうしたの愛佳ちゃん」

「その(ひと)を離してあげて?」
「えっ…どうして?」


私の言葉に対し、光希くんだけでなく瀬野も驚いた様子。

けれど私はもう冷静さを取り戻していた。



「彼は巻き込まれただけなの。
瀬野くんの手のひらで転がされてただけだよ。

だって瀬野くん、“こうなること”がわかっていたんだよね?それで私が恐怖に怯えて、弱った心を掴もうとでもしたの?」


光希くんがいる以上、表の自分を偽るけれど。
言っていることは裏の自分と変わりない。

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