愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「……川上さん」
「お、お風呂入っていいから!
私はご飯作っとく」
慌てて自分から口を開く。
こんなことで怖がるだなんて情けない。
瀬野がお風呂に入ったところでため息を吐き、髪を乾かしてからキッチンに立つ。
正直食欲なんてないけれど、我慢していると思われたくないのでふたり分用意する。
瀬野がお風呂から上がった時も一瞬ビクリとしてしまったのだが、必死で平静を装った。
「ご飯、もう少し待ってね」
「……俺に手伝えることはある?」
「ないよ、大人しく待ってて」
「ん、わかった。ありがとう」
瀬野は私と一定の距離を保ちながら話し、それから部屋へと戻る。
きっと私が怖がっているとバレているのだろう。
けれど瀬野は触れてこない。
私が瀬野の思い通りになって嬉しいのか、それとも気を遣っているのか。
前者のような気がするけれど。
料理を作り終えると、私は一度深呼吸して心を落ち着かせる。
それから部屋に戻り、いつも通りに振る舞おうと心がけた。