愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「……私をひとりにさせたくないって言ったくせに」
初めてアジトに行った日の瀬野の言葉を思い出す。
自分から離れさせないとか、ひとりにさせないとか。
そのようなことを言っていたはずなのに。
「もしかして、俺がいなくて寂しいって思ってくれたの?」
「……自惚れないで。嘘つきだと思っただけ」
「ごめんね、莉乃が俺に会いたいってうるさくて」
“莉乃”という名前ですぐに思い出した。
瀬野の族で唯一の女の子であり、彼と親しかった。
「……ふーん、じゃあ私は家にいていいじゃない」
「そうなんだけど… そっちの方が確実で安全だし、それに…」
何やら私に言いたげな様子の瀬野。
さすがの私も眉をひそめて、彼をじっと見つめた。
「何、はっきり言いなさいよ」
「敵を油断させたくて」
「……は?」
「俺がそばにいないってなると、きっと敵は油断するだろうから」
少し言いにくそうな瀬野。
つまりまた私を危険な状況に置くということか。
「……私が傷つく可能性は?」
「ほぼゼロだと思ってくれたらいい」
“ほぼ”という言葉に少し引っかかるものがあったけれど、ここは了承するのが妥当だろう。