愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜




「いった、本当にさいあ…」


瀬野が下敷きになっていたため、そこまで痛くはなかったけれど。

反射的に“痛い”と口にして、瀬野に文句を言おうとしたが───


「……っ」


目の前に瀬野の顔があり、思わず全身が固まってしまう。

側から見れば、まるで私が瀬野を押し倒しているかのようである。



「ご、ごめ…」

いくら勢いとはいえさすがにやりすぎたと思い、慌てて謝って離れようとしたけれど。


「待って」
「…っ」


瀬野は私の腰に右手を添えて、離れることを阻止してきた。

そんな彼に笑みはなく、真剣な表情で私を見つめてくる。


ああ、ダメだ。
調子が狂う。

まるでその真剣な瞳に囚われたかのようで。


「俺が川上さんにどうして欲しいか、わかるよね?」


本当に嫌だ、この男。
意地の悪い笑みを浮かべながらも、目は本気だ。


「そんなの嫌…」
「大丈夫、怖くないよ」


あまりにも優しい手つきで、邪魔な私の横髪を耳にかける動作をしてきた。

それから頬を撫でてくる。

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