愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



まただ。
また、頬に熱が帯びて、全身が火照るようなこの感じ。

思考が鈍くなるのだから、本当に嫌だ。
自分が自分じゃなくなるようで。


「おいで」


今の私は私じゃない。
その声に誘われるように、操られるように。

ゆっくりと彼に近づいていく。


密着する体。
瀬野にキスされたように。

見様見真似でそれをやろうとする。
気づけばあと数センチ。


操られた私の体はもう止まることを知らず、目を閉じて互いの唇が触れようとしたその時───


どちらかのスマホが大きな音を立てた。
静かな部屋にそれは大きく響き、ハッと我に返る。

自分は何をしていたのだと思い、瞬く間に顔が熱くなるのがわかった。


「……っ、ごめん、私だ」


たまたま私のスマホが鳴っていたため、それをとって部屋を出る。

電話の相手は沙彩からで、正直話の内容などは全く耳に入ってこなかった。


またあとで連絡するとの事で、電話は終了した。


「……あーっ、最悪…」


あれは完全に瀬野の勝ちだ。
揺らがされ、乱され。

気づけば瀬野との距離は数センチだった。
あと少しで私から瀬野にキスしていたのだ。

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