愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「…っ、もう嫌…」


目を閉じて心を落ち着かせようと努力する。
しばらくの間、洗面所の前でしゃがみ込んでいた。


「……よし」

ようやく落ち着いたと思い、立ち上がった私は部屋へと戻ろうとした。


けれど───


「あ、川上さ…」
「……っ!?」

平然としている瀬野に名前を呼ばれただけで、先ほどのことを思い出してしまい、一瞬にして恥ずかしさが戻ってしまう。

瀬野の顔が見れない。


全てを諦めた私は、部屋の入り口で先ほどと同様しゃがみ込んだ。


「……川上さん?」

「全部あんたのせいだから…私は何も知らない、本当に全部瀬野が悪くて…」

「川上さん、落ち着いて。
顔真っ赤だよ?」

「……っ、うー…」


恥ずかしさの限界なんてもうすぐそこ。
ここまできたら、プライドなんか捨てて。


「瀬野……こっち、来て…」

相手を頼るほかない。
一度だけ瀬野を見上げた後、腕を組んでそこに顔を埋めた。


「……本当に川上さんは狂わせるね」


瀬野はすぐに私のそばまでやってきて。

そして私を抱きしめる。
優しく包み込むように。


すかさず彼の胸元に顔を埋めて、私からもギュッと抱きついた。

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