愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「もー、そんなかわいいことしないで」
「うるさい…この操り野郎」
「ふはっ、ひどいこと言う。
そんな能力、俺にないのに」
「ある!私の意思じゃなかった…!」
「うん、そうしておこうか」
彼が小さく笑う。
なんだか楽しそうな笑いに、私の恥ずかしさが増して行く。
「俺さ、もうすぐで川上さんと過ごすのも終わりだから、いろいろ考えてたんだよ」
「……何を」
私の頭を優しく撫でながら。
落ち着いた声で話す瀬野に耳を傾ける。
「川上さんをどう攫おうかなって」
「なっ…!」
そのようなことを平気で言ってのける瀬野に、返す言葉もなくなる。
攫うって、なんてことを考えているのだ。
「だって川上さんとの関係を断ち切れると思う?」
「……思う」
「俺は無理だよ、そんなの。
だから攫おうって」
「いきなりぶっ飛びすぎ」
「結構本気だよ。このまま連れ去ってもいいくらい」
少し強めに私を抱きしめて、そのように話す瀬野。
それなりに本気のようだ。
「ねぇ、ダメ?
俺のそばにいてよ、川上さんがいい」
「……ダメって、言ったら?」
「攫う」
「本当にバカ」
私が素直にそれを受け入れると思ったのか。
ネタバラシをされても余計に拒否するだけである。
「攫われるくらいなら自分の家がいい」
「それだと川上さんと過ごせなくなるから意味ないよ」
「……だから、あんたも居ればいいじゃん」
「えっ…?」
瀬野にギュッとくっついて、離れないようにする。
恥ずかしくて今の顔を絶対に見せたくない。