愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「この家に、あんたも」
「俺も居ていいの?」
「攫うとか変なこと言い出すから」
「ここに居ていいなら、俺は川上さんを攫わない」
「当たり前でしょ」
「うん、約束するよ」
嬉しそうな声。
瀬野が今、笑っているのだろうと簡単に想像がつく。
「じゃあもう寝るからベッドに運んで」
「えっ、それってもしかして誘ってる…?」
「やっぱ自分で行く…わっ」
瀬野が余計なことを言うから、自分の足で移動しようと思ったけれど。
その前に瀬野が私を抱きかかえてしまう。
いわばお姫様抱っこというものだ。
「本当に強引」
「ただ川上さんを離したくないだけだよ」
相変わらずニコニコ笑う瀬野には余裕しかない。
やっぱり瀬野との関係を断ち切れなかった。
軽々しく私の体を持ち上げて、ゆっくりとベッドの上に下ろされる。
「じゃあ俺も寝ようかな。
電気、消すね」
「……うん」
明かりが消え、周囲が暗くなる。
暗闇の中で瀬野が隣にやってきた。
「寝れるかな、今日」
「……眠たくないの?」
寝るって言ったくせに、なんてことは言えない。
私自身も眠気がやってこないのだ。
「うん、実は目が冴えてる」
「ふーん、そう」
「冷たいね、川上さん」
「……どうして欲しいの?」
瀬野の方を向くようにして横になれば、彼も私に体を向けていて。
暗い中で瀬野と目が合うのは変な気分だ。
「さっき、キスしそびれたからさ」
瀬野の手が伸びて、私の頬に触れる。
それはまるで合図のようだった。
ゆっくりと近づいてくる瀬野に私は───
抵抗することなく、目を閉じてそれを受け入れていた。