愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
*
意識が戻ったのは、光希くんに何度も名前を呼ばれた時だった。
「…っ、愛佳ちゃん!
大丈夫!?僕が誰だかわかる!?」
「うっ…光希、くん…?」
私は壁にもたれる形で意識を失っていたようだ。
まだ少しボーッとする中で光希くんに視線をやる。
「良かった…愛佳ちゃん、中々目を覚まさないから心配で…」
「ごめんね、光希くん…それにしても…っ!?」
その時、自分の手首に違和感を覚えて完全に意識がはっきりとした。
手首が紐のようなもので縛られているような感覚がして、手の自由が利かないのだ。
「どういう、こと…?」
手は後ろで組まされているため、その様子がわからないけれど。
ふと光希くんを見れば、彼も後ろで手首を縛られていた。
恐らく私も彼と同じ状況なのだろう。
そうだ、思い出した。
光希くんと陽翔くん、ふたりと歩いていたら突然光希くんが倒れて、それから───
「…っ、陽翔くんは…!?」
「僕もわからないんだ。突然意識が遠のいて、はるぽんのこと見る余裕なかったから…」
「そうだよね…」
手首を縛られた状態で周りを見渡す。
薄暗くて、小さなひとつの電球だけが周囲を照らしていて。
なんとも不気味な場所だ。
全体がコンクリートの造りになっており、床は少し冷たい。
物は何も置かれておらず、狭くて寂しい場所だった。
「愛佳ちゃん、寒くない?
大丈夫?」
「うん、大丈夫」
真冬だというのに、不思議とそこまで寒くない。
この場所に何か理由があるのだろうか。