愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜






意識が戻ったのは、光希くんに何度も名前を呼ばれた時だった。


「…っ、愛佳ちゃん!
大丈夫!?僕が誰だかわかる!?」

「うっ…光希、くん…?」


私は壁にもたれる形で意識を失っていたようだ。
まだ少しボーッとする中で光希くんに視線をやる。


「良かった…愛佳ちゃん、中々目を覚まさないから心配で…」

「ごめんね、光希くん…それにしても…っ!?」


その時、自分の手首に違和感を覚えて完全に意識がはっきりとした。

手首が紐のようなもので縛られているような感覚がして、手の自由が利かないのだ。


「どういう、こと…?」

手は後ろで組まされているため、その様子がわからないけれど。

ふと光希くんを見れば、彼も後ろで手首を縛られていた。


恐らく私も彼と同じ状況なのだろう。


そうだ、思い出した。

光希くんと陽翔くん、ふたりと歩いていたら突然光希くんが倒れて、それから───



「…っ、陽翔くんは…!?」

「僕もわからないんだ。突然意識が遠のいて、はるぽんのこと見る余裕なかったから…」

「そうだよね…」


手首を縛られた状態で周りを見渡す。

薄暗くて、小さなひとつの電球だけが周囲を照らしていて。


なんとも不気味な場所だ。

全体がコンクリートの造りになっており、床は少し冷たい。


物は何も置かれておらず、狭くて寂しい場所だった。


「愛佳ちゃん、寒くない?
大丈夫?」

「うん、大丈夫」


真冬だというのに、不思議とそこまで寒くない。
この場所に何か理由があるのだろうか。

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