愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「良かった…多分ここが地下室だからかな」
「地下室…?」
「僕の予想では敵の地下室だね。
捕獲した人たちの収容場所かな」
ゾッとした。
その言葉にも、捕らえられてもなお冷静な光希くんにも。
そんな光希くんに対して何も言葉を返せずにいたら、突然誰かの足音が聞こえてきて。
本当に地下なのだろうか、その音がよく響いた。
「……来たね、敵が。大丈夫、愛佳ちゃんを傷つけようものなら僕が許さないから」
ゆっくりと開くドアから、中よりも明るい光が差し込んできて───
「……え」
声にならない声を上げたのは、きつくドアの方を睨んでいた光希くんで。
私は声すら出なかった。
「響さん、ついにこの日が来ましたよ…!」
「ああ、そうだな」
なぜなら目の前には、嬉しそうな顔をして私たちを見つめる陽翔くんの姿があったからだ。
見ず知らずの男に敬語で話しかけている。
一体、どういうこと───?
「はる、ぽん…?」
光希くんが掠れた声で彼の名前を呼ぶ。
そうなるのも仕方のないことだ。
だって彼は仁蘭の副総長で───
『俺がそばにいないってなると、きっと敵は油断するだろうから』
その時ふと瀬野とのやりとりを思い出す。
もし陽翔くんが“裏切り者”だとしたら?