愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
もしかしてこれは、本当に緊急事態───
いや、瀬野に限ってそれはない。
もし光希くんが知らなくても、瀬野はきっと知っている。
あいつはそういう人間なのだ。
この後の対処法もすでにあるはずだと。
私は信じる、瀬野を。
彼の言葉が嘘偽りないと───
「陽翔もこの件が終われば幹部になるのか。
…ふっ、長い間潜入してたな」
「そうっすよ響さん!
俺、響さんの背中をずっと追ってるんです…!
総長も『誰よりも優秀な幹部だ』って言ってましたよね!絶対に仁蘭の奴らを倒してやりましょう、あの女を人質にとれば瀬野涼介も動けないはずです!」
「……あまり気持ちを昂らせるな」
響さんと呼ばれたその男からは圧を感じる。
何より私たちを見ても表情ひとつ変えないため、瀬野と重なる部分もあり、彼が強いということはなんとなく予想ができた。
「すみません…」
「倒したい気持ちは誰だって同じだ。
だからこそ冷静に行け」
「は、はい…!」
陽翔くんは背筋を伸ばして返事をする。
相手への敬意が受け取れた。