愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「これから瀬野涼介は無様な姿で負けるんだ。
そうしたら俺の女になればいいよ、川上さん」
「……っ」
「雷霆に負けた総長の女より、勝った幹部の女の方が価値はあるぜ」
「…ごめんね。陽翔くんみたいな最低な男の人に興味はないの」
「はっ、バッサリ言うね君も」
当たり前だ。
こんなことをされて、誰が陽翔くんの女になりたいと思うのか。
けれど抵抗することもできず、連れてこられたのは廃れた倉庫のようなところだった。
一部分のシャッターが閉められていて、不気味な雰囲気すら漂っている。
地下に仁蘭のアジトがある、廃工場の雰囲気と似ていた。
「総長、遅くなりましたが連れてきました」
そこには複数の男が立っている中で、倉庫の中央にはひとりの男が黒いソファに腰を下ろしていた。
「ああ、やっときたか」
その男は金髪だった。
耳にはいくつものピアスがつけてあり、舌にもピアスをつけているため、見るからに痛そうだ。
いかにも悪そうな男である。
「なんだ陽翔、お前もしかして怪我を負わせたのか?」
「…っ、すみません…」
「気をつけろよ?
まあ、意識があるのに免じて許してやるが」
「あ、ありがとうございます…!
気をつけます!」
陽翔くんは彼に怯えている様子だったけれど、不思議と私は怖いと思わない。
雷霆の総長に比べたら、瀬野の方がずっと怖いと思ってしまう。