愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「てめぇ総長に向かって…」
「陽翔、大丈夫だ」


敵の総長の代わりに陽翔くんが私を殴ろうとしてきたけれど、総長はそれを止めた。

かと思いきや、私の目の前にやってきて───


「……っ!?」


突然の痛みに顔を歪める。

目の前の男が私の髪を乱暴に掴み、引っ張ってきたからだ。


「せっかくの綺麗な顔が、余計な一言で台無しだぞ?
もっと女らしく俺に媚びろよ」

「…っ、誰があんたなんかに…」


暴力で自分の思い通りに動かすつもりか。
瀬野なら絶対にそのようなズルイ真似はしない。


「強情な女は気に食わねぇな。
お前も瀬野と同じようにめちゃくちゃにしてやるよ」


その時、敵の総長が手を振りかざす。

恐らく殴られるのだと思い、咄嗟に目を閉じたその時───


「その子に乱暴な真似、しないでくれる?」

低く落ち着いた声が倉庫に響いた。
あまりに突然のことで、敵の総長の動きも止まる。


遅い、本当に来るのが遅い。
けれど同時に安心感を抱くのが自分でもわかった。

< 315 / 600 >

この作品をシェア

pagetop