愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「てめぇ総長に向かって…」
「陽翔、大丈夫だ」
敵の総長の代わりに陽翔くんが私を殴ろうとしてきたけれど、総長はそれを止めた。
かと思いきや、私の目の前にやってきて───
「……っ!?」
突然の痛みに顔を歪める。
目の前の男が私の髪を乱暴に掴み、引っ張ってきたからだ。
「せっかくの綺麗な顔が、余計な一言で台無しだぞ?
もっと女らしく俺に媚びろよ」
「…っ、誰があんたなんかに…」
暴力で自分の思い通りに動かすつもりか。
瀬野なら絶対にそのようなズルイ真似はしない。
「強情な女は気に食わねぇな。
お前も瀬野と同じようにめちゃくちゃにしてやるよ」
その時、敵の総長が手を振りかざす。
恐らく殴られるのだと思い、咄嗟に目を閉じたその時───
「その子に乱暴な真似、しないでくれる?」
低く落ち着いた声が倉庫に響いた。
あまりに突然のことで、敵の総長の動きも止まる。
遅い、本当に来るのが遅い。
けれど同時に安心感を抱くのが自分でもわかった。