愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「やっと来たな、瀬野涼介。けど何でお前ひとりなんだ、もしかして見張りに送ったやつらを全員倒したのか?」
「いや、俺はひとりも倒してないよ。
仲間に任せたんだ」
「……おい、仲間は連れてくるなと言ったはずだぞ。
破ったのか」
どうやら敵の総長はわざと瀬野をここに呼んだようだ。
わからない。
瀬野がどこまでの“事実”を知っているのか。
けれど今の状況を見て顔色ひとつ変えないため、やっぱり全てを知っていそうだ。
「もちろん破ってないよ?」
「おい瀬野涼介!
何わけのわからねぇこと言ってんだよ!」
痺れを切らしたのは敵の総長ではなく陽翔くんで。
瀬野に怒りをぶつけている。
「……陽翔、すごい変わりようだね」
「ハッ、ずっとこの日を待ってたんだよ俺は。お前は敵の俺を副総長に任命したんだ、本当に惨めだなぁ!?
俺に裏切られてこの状況に陥ったんだから、もっとショックを受けたような顔しろよ。つまんねぇな!」
怒り、叫ぶのは陽翔くんだけで。
瀬野は穏やかな表情を崩さない。
「瀬野、随分と余裕そうだがこっちには人質がふたりもいるんだ。大人しく捕まってもらうぞ。
それと、お前の仲間を捕らえ次第、命令に背いたとしてこの女の身は保証しねぇから覚えとけ」
乱暴に髪を掴み上げられ、無理矢理瀬野と目を合わせられる。
その時初めて瀬野の目が見開かれた。