愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「どうして騙してるのが“自分たちだけ”だと思ってるの?」
「……まさか、お前っ…」
敵の総長が目を見張ったその時。
倉庫の入り口の向こうから声が聞こえてきた。
「そ、総長!助けてください!」
「ど、どうして…どうして響さんが…ぐっ」
必死に叫ぶような声は、やがて消える。
そして入り口から現れたのは───
「涼介、こっちは終わった」
「……うん、ありがとう」
敵の総長がその実力を認めていて、【雷霆】の幹部だったはずの響という男だった。
どうしてこの男が瀬野の名前を呼んだというの?
「ひ、響さん…?」
陽翔くんが声を震わせながら、その名前を呼ぶ。
なんとも余裕のない声だ。
「紹介するよ。彼は【仁蘭】の副総長、東郷響だよ。確か【雷霆】の優秀な幹部なんだよね?」
「優秀というか俺以外の奴が弱かっただけだ」
響という男は面倒くさそうに頭を掻き、瀬野の横へと並ぶ。
どういうこと…?
先ほどまで敵だと思っていた【雷霆】の幹部である彼は、本当は【仁蘭】の副総長───?
「騙して悪いな、総長。今まであんたに誓ってきた忠誠心も全部嘘だから」
「……響、てめぇ」
これには敵の総長も予想外だったようで。
怒りに体を震わせながら立ち上がった。