愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「やっと俺は元の立場に戻れるのか」
「長い間、潜入させて悪かったね響」
「絶対に悪いと思ってないだろ」
「そんなことないよ」
目の前で繰り広げられるのは、まるで友達のようなやりとり。
その光景は“仲間同士”であることを示していた。
「…っ」
それを理解した瞬間、途端に敵の総長の手が私に伸びてきたけれど、途中でその手が誰かによって制された。
「その汚い手で愛佳ちゃんに触れないでくれる?本当に腹が立ってしょうがないんだ、余計な真似はしないで欲しいな」
いつもの軽い調子ではない。
殺気までもが漂っている光希くんの姿がそこにあった。
そんな彼が敵の総長の手首を掴んでいる。
いつの間にか光希くんを縛っていたはずのロープは外れていた。
「はるぽんは僕を蹴るだけならまだしも、愛佳ちゃんにまで手を出した。絶対に許さないよ」
「…う、嘘だ…ひ、響さんが仁蘭の副総長なんてそんな…お、俺が仁蘭の副総長の位をもらってて…」
「言っとくけど僕たち幹部は、はるぽんのことを副総長だなんて一度も思ったことないよ。だって弱いし、ヘタレだし、クズだし。
よく自分が副総長になれた理由を考えなかったね、そんなに弱いのに」
「……そん、な…」
「あはっ、滑稽だね、バカみたいだね。騙してた身なのに、どうしてそんな裏切られたような顔するの?」
確かに陽翔くんはひどく傷ついたような、ショックを受けたような顔をしていた。
けれど彼は騙してた身なのだ、そのような表情をする資格などない。