愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「でも光希くんのおかげで私は敵の総長に連れて行かずに済んだんだよ。守ってくれてありがとう」
「ど、どうしてそんなに優しいの、僕は自分の無力さに…打ちひしがれて…!」
たくさんの涙が目から溢れ、終いには私に抱きついてきた。
これはもう大人しく受け入れるべきだろう。
本当に幼い子供のようだ。
そのくせ光希くんがキレた時には身震いするほど怖いのだから恐ろしい。
「光希、川上さんは怪我を負ったんだ。
安静にさせてあげて」
この状況に困っていると、ようやく瀬野が止めに入ってくれる。
「……うん、もうこんな失態しないよ僕は」
「光希くんも怪我してるんだから、しばらくは安静にしてね?今日は助けてくれて本当にありがとう」
「うん…愛佳ちゃんありがとう、大好き…」
まだ涙声だったけれど、私から離れた光希くん。
「じゃあ今日の件は明日話そう。
俺は残るから、ここで解散で」
「え、僕も残りた…」
「光希。俺たちは帰るぞ」
わざわざ病室まで来てくれた幹部のみんなだったけれど、瀬野の一言で病室を後にする。
光希くんは悠真くんに連れて行かれるようにして帰っていった。
「……なあ」
「どうしたの、響」
けれど幹部のひとり、先ほどまで敵陣にいた副総長の響という男だけが外に出ず、扉の前で立ち止まった。