愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



「いや、涼介じゃなくて…そこの女の方」
「川上さんね」

「ああ、そいつ。
悪かったな、すぐに怪我の手当てしてやれなくて」

「えっ…」
「じゃあ俺はこれで」


ぶっきらぼうだったけれど、悪い男の人ではなさそうだ。

それだけ言い残して彼も病室を後にする。
そして瀬野と私だけが病室に残された。


「……響、ああ見えて律儀なんだよ」
「だろうね、今謝ってきたし」

「さっきまでは敵として川上さんと接してたけど、もう大丈夫。響は俺たちの仲間で、信頼のおける副総長だから」

「……うん」


ベッド近くの椅子に座る瀬野が私に目を向ける。
けれど珍しいことに、そんな彼に笑顔はない。


「あんたは帰らなくていいの?」

なんとなく調子が狂う。
どこか悔しそうに見えるその表情、瀬野らしくない。


「……ずっとここにいる」
「は?」

「明日、川上さんが退院するまでずっと」
「バカじゃないの?学校があるでしょ」


一応明日のお昼頃に退院予定なのだが、学校は休むことにしたけれど。

私だけでなく瀬野まで休めば誤解を生みそうだ。


「川上さんのそばにいたいんだ」
「…っ」

「本当にごめんね、怪我させて」


ゆっくりと手が伸びて、頭に巻かれた包帯にそっと触れる瀬野。

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