愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「どうしてそんな悔しそうな顔するの?」
耐えきれなくて、思わず質問してしまう。
少しの沈黙が流れた後、瀬野は口を開いた。
「悔しいよ、川上さんに怪我を負わせたから。守るって言ったのに、ちゃんと守りきれなかった。…怖い思いさせてごめん」
「別に、私が勝手に光希くんを庇っただけで、大人しくしとけば怪我なんて負わなかったんだから、あんたのせいじゃないでしょ」
「……危険な状況に晒したんだ、そのリスクを予め考えておくべきだった。雷霆の総長も短気だから、すぐ川上さんに手を出そうとして…」
そんな風に顔を歪めて、まるで瀬野が敗者のようだ。
「そんな後悔したってもう過ぎた話なんだから仕方ないでしょ」
「……うん」
「じゃあ他にすることないの」
「えっ…」
私の言葉に珍しく戸惑いを見せる瀬野。
本当にわかっていない様子。
前に一度、敵に捕まってカラオケ店に連れ込まれた時。
私を助けてくれるなり真っ先にしてくれた行動があったのに、今回はそれがない。