愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「少し屈んで。
私と同じ目線ぐらいまで」
「…どうして?」
「いいから」
少し不思議そうにしながらも、瀬野が私の顔のそばにやってきた。
そのタイミングを狙い、彼の頬に唇を寄せる。
そしてほんの一瞬、そこに触れるだけのキスを落とした。
「…っ」
「き、今日は…その、頑張ったご褒美…変な意味はないから…!お、おやすみ!」
目を見張り、驚いた様子の瀬野。
ここに来てようやく私はハッとした。
途端にぶわっと顔が熱くなり、慌てて瀬野に背中を向けて横になる。
布団を頭まで被り、完全に瀬野の存在を消す。
何をしているんだ私。
頭を怪我して、思考が鈍ってしまったのだろうか。
いや、そうに違いない。
無理矢理でもそう思わないと、先ほどの自分の行動に言い訳ができないのだ。
ギュッと目を閉じて寝ようとしたけれど、中々眠れない。
その上瀬野が黙っているはずもなく───
「……きゃっ!?
な、何して…」
突然被っていた布団を剥いできたのだ。
「今、川上さんは俺に何をした?」
珍しく、まだ驚いた表情をしている瀬野にそのような質問をされる。
そんなの恥ずかしくて答えたくない。
「何もしてない、から…早く寝かせて」
「何、ご褒美って。
普通に期待するよ俺、すでに自惚れてるよ」
「あんたはいつも自惚れてるでしょ」
やばい、と思った時にはもうすでに手遅れで。
やけに真剣な顔つきをした瀬野が、私の顔のすぐそばに手を置いて覆い被さってきた。