愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「…は、離れて」
「今日は何もしないって決めてたのに」
「じゃあ何もしないで…」
「頬、熱いね」
「…っ」
空いている方の手が私の頬に添えられる。
「川上さ…」
「せ、瀬野が、私が寝るまで起きてるって言うから…」
「えっ…?」
「いつもは私と一緒に寝て抱きしめてくるくせに」
いつもと違う行動をする瀬野にモヤモヤして。
言葉にするのは嫌だったとはいえ、あんな大胆なことをしてしまった自分が恥ずかしい。
「……どうしよう」
「なに」
「嬉しくてにやけそう。川上さんに求められるのって、こんなに嬉しいんだね」
瀬野が目を細めて嬉しそうに笑う。
いつもの彼の姿が目の前にあった。
「べ、別に求めてるわけじゃ…」
「……うん、ありがとう川上さん」
「は…?」
「さっきまでバカみたいに落ち込んでたのに、不安も全部一瞬で吹き飛んだよ」
たったひとつの行動が、瀬野を通常運転にさせてしまったらしい。
これはこれで最悪だ。
「寝る前に一回だけ、いい?」
“キス”とは言わずに。
唇に指を添えてくる瀬野は、キスの許可を求めているようで。
「一回だけだからね」
「うん、わかった」
「終わったら瀬野も寝てよ、電気消したいから」
「……ふっ、かわいい言い方だね」
「う、うるさい…!」
遠回しな言い方に笑われてしまい、余計に恥ずかしさが募るけれど。
それ以上言い返すことはせず、素直にそれを受け入れた。