愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
「行き先はアジトで良かったよな」
「え…あっ」
行き先を聞いていなかったため、風雅さんの口から“アジト”という言葉が出て思わず声が漏れてしまった。
慌てて口を閉じる。
てっきり家に帰るものだと思っていた。
「はい、お願いします。…ごめんね川上さん、少しだけアジトに寄らせて欲しい」
「別にいいけど、何かあるの?」
「幹部以外は全員、陽翔が副総長だって信じてたから、その説明をしないといけないんだ。
混乱を抑えるために俺も参加しないといけなくて」
確かに、それは少し面倒そうだ。
雷霆の幹部だった男が現れて、いきなり『仁蘭の副総長だ』と言われたら誰もが混乱することだろう。
そのような時にトップの瀬野がいないと中々信用できなさそうだ。
「こればかりは俺も参加しといた方がいいみてぇだな」
「お願いします。仲間も風雅さんがいた方が信じるかと」
「それでも混乱は免れねぇだろ。
副総長の陽翔が敵だった時点で動揺が起きそうだ。
まあ仁蘭に限らず、煌凰にも動きがありそうだな」
「多分、あるかと思います」
「まさか川上さんの登場でここまで急展開になるとはな。いい意味で歯車が狂った」
信じたくなかったけれど、私のせいでこのような危険な状況になってしまったようだ。