愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜


「だって雷霆と比べ物にならないぐらい強敵なんだよ?それなのにご褒美が同じなんて俺、悲しい」

「あんたって、本当に…!」
「ん?なんか言った?川上さん」

「…っ、わかったから!
一回だけだからね!」

「嬉しいなぁ、川上さんからのご褒美。
俺、本気で頑張るからね」

「当たり前でしょ。
さっさと私を危険な場所から解放してよね」


いつになったらこの状況から脱出できるのだ。
私の平穏な日々はまだ帰ってきそうにない。

瀬野も早く風雅さんのように危険な世界から脱出して、それから平穏な日々を───


平穏な日々を、瀬野は取り戻せる?


ひとりは嫌だと言っていた。
重い過去を抱えている瀬野は、まだそれと向き合えていない。


危険な世界から離れたところで、瀬野が“普通の毎日”を送れるという確証はないのだ。

また女の人と体の関係を持つ生活が始まるのだろうか。


瀬野を苦しめる母親のことが解決しない限り、苦しみから逃れられることはない。


「……川上さん?」


ハッと我に返る。
どうして私が瀬野の心配をしているのだ。

関係ない、私には関係ないと自分に言い聞かせるけれど。


「なに?」

それでも瀬野のことが頭から離れなくて、モヤモヤした気持ちが胸に広がっていた。


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