愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜
*
いつもの廃工場近くで車が停まる。
相変わらずそこは昼間なのに不気味で薄暗い。
「おっ、響。
もう着いてたのか」
車から降りるなり、真っ先に風雅さんが口を開いた。
風雅さんと同じ方向に視線を向けると、そこには昨日に会ったばかりの響きという男がいた。
「風雅さん、お久しぶりです」
風雅さんに声をかけられても、表情を変えない彼はポーカーフェイスなのだろう。
昨日からずっと同じ無表情だ。
「長い間、雷霆に潜入してたんだな。
本当によくやったよ響も」
「ありがとうございます」
確かに敵陣に潜むというのは、相当な精神力がいるはずだ。
その点に関しては陽翔くんもすごいのかもしれない。
「じゃあ行きましょう。
もうみんな集まってるみたいです」
瀬野はさりげなく私の手を繋いで、そう声をかけた。
本当に堂々と手を繋がないでほしい。
ため息を吐きそうになったけれど、アジトでは表の自分を演じないといけないため、我慢する。
その時、響という男と目が合ってしまった。
無表情から感情など読み取れないため、とりあえず挨拶だけしておく。
「あ…こんにちは、響くん…だよね」
瀬野たち幹部とタメで話していたため、私も初めからタメで話しかける。
けれど───
「……ああ」
素っ気ない返しだけで、さらには顔を背けられてしまう。