愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜





いつもの廃工場近くで車が停まる。
相変わらずそこは昼間なのに不気味で薄暗い。


「おっ、響。
もう着いてたのか」


車から降りるなり、真っ先に風雅さんが口を開いた。

風雅さんと同じ方向に視線を向けると、そこには昨日に会ったばかりの響きという男がいた。



「風雅さん、お久しぶりです」


風雅さんに声をかけられても、表情を変えない彼はポーカーフェイスなのだろう。

昨日からずっと同じ無表情だ。


「長い間、雷霆に潜入してたんだな。
本当によくやったよ響も」

「ありがとうございます」


確かに敵陣に潜むというのは、相当な精神力がいるはずだ。

その点に関しては陽翔くんもすごいのかもしれない。


「じゃあ行きましょう。
もうみんな集まってるみたいです」


瀬野はさりげなく私の手を繋いで、そう声をかけた。
本当に堂々と手を繋がないでほしい。

ため息を吐きそうになったけれど、アジトでは表の自分を演じないといけないため、我慢する。


その時、響という男と目が合ってしまった。

無表情から感情など読み取れないため、とりあえず挨拶だけしておく。


「あ…こんにちは、響くん…だよね」


瀬野たち幹部とタメで話していたため、私も初めからタメで話しかける。

けれど───


「……ああ」

素っ気ない返しだけで、さらには顔を背けられてしまう。

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