愛溺〜偽りは闇に堕ちて〜



とにかく腰に回された手を離してほしいと思ったその時───


誰かのスマホが音を立てた。


「ごめん、俺だ」


どうやら瀬野のスマホが鳴ったようで。
彼は画面を確認するなり、私から離れてしまう。


「…っ」

先ほどまでは響くんや光希くんにやらないだとか言っていたくせに、やっぱり嘘だったのだろうか。


心臓が嫌な音を立て、ギュッと胸が締め付けられるように苦しくなる。

自分でも嫌だと思う感情が湧き上がるのがわかった。


理由はただひとつ。
スマホの画面を私も見てしまったからで。

その相手は間違いなく───



莉乃ちゃん、だった。
“莉乃”と画面に表示されていたのだ。


瀬野は私たちに声をかけることなく、スマホを耳に当てながら地下室を後にしてしまう。


「え…涼ちゃんは、急にどこに行ったの…?
愛佳ちゃんを置いて…」

「あの感じはどう考えても深見(ふかみ)のところだろう」


いつのまにか響くんを奥の部屋で寝かせ、こっちに戻ってきた悠真くんがわかったような口調で話した。


「はぁ!?僕に愛佳ちゃんをあげないって言った直後に莉乃ちゃんのところに行ったっていうの!?僕たちに何も言わずに!?」

「…っ」


どうやら“深見”とは、莉乃ちゃんのことだったようで。

悠真くんは瀬野の反応を見て、すぐに彼女のことだとわかったようだ。

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